医療法人の理事長の権利義務承継規定の新設前に任期が満了した理事長と登記申請の権限(登記研究)
登記研究 平成30年12月号より
医療法人の役員の権利義務承継規定の新設及び登記の取扱いに関して
平成19年4月1日以降就任し、平成28年8月31日までに任期が満了した理事長には、権利義務承継規定の適用がない
⇒ 原則、任期満了した理事長に登記申請の権限なし
例外、新理事長を選任せず登記を申請しなければならない急迫の事情があるときは申請できる
よって
平成19年4月1日以降就任、平成28年8月31日までに任期満了した理事長
資産総額変更の登記の申請権限はなし
そのため平成26年8月31日より前に就任していて、その後理事長の変更登記が申請されていない場合は、理事長の変更登記をしなければ資産総額の変更登記は申請できない
平成28年9月1日以降に退任した理事長は、後任者が就任していない限り、登記申請義務あり
(関連知識として)
・医療法人の役員について、医療法に任期が規定されたのは、良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律(平成18年法律第84号)が施行された平成19年4月1日から
・旧医療法(平成27年法律第74号による改正前の医療法)46条の2第3項は「役員の任期は2年を超えることができない。ただし、再任を妨げない。」と規定。この場合も、医療法人の役員が任期の満了又は辞任により退任した結果、法律又は定款若しくは寄付行為で定める役員の員数を欠くことになる場合について、「任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する。」とするいわゆる権利義務承継規定(会社法346条1項、351条1項参照)は設けられておらず、役員の員数を欠くことになった場合には、都道府県知事は、利害関係人の請求又は職権により「仮理事」を選任しなければならないとされていた(旧医療法46条の3第5項)。
・平成28年の医療法の改正により、役員に欠員が生じた場合の措置として、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員が就任するまで、なお役員としての権利義務を有するとする権利義務承継規定を設けるとともに都道府県知事による「一時役員の職務を行うべき者の選任」の規定を設け(医療法46条の5の3第1項・2項)、これらの規定を理事長にも準用することにした(医療法46条の6の2第3項)。
・登記の取扱いは、次の通りとなる。
(1)仮理事選任の制度は廃止
(2)医療法46条の5の3第1項に規定する場合において、医療法人の業務が停滞することにより損害を生じるおそれがあるときは、都道府県知事は、利害関係人の請求により又は職権で、一時役員の職務を行うべき者を選任しなければならない(医療法46条の5の3第2項)。
なお、理事や一時役員の職務を行うべき者は、代表権を有する者ではないので、登記事項ではない。役員のうち登記事項とされているのは代表権を有する者のみ(組登令2条2項4号)。
(3)理事長について、理事と同様、権利義務承継規定が設けられるとともに都道府県知事による「一時理事長の職務を行うべき者の選任」の規定が設けられた。一時理事長の職務を行うべき者は、代表権を有する者に該当するので、一時理事長の職務を行うべき者が選任された場合には、「仮理事長」として登記されることになるが、この登記は、知事の嘱託ではなく、仮理事長の申請によってします。
(4)理事長について、権利義務承継規定が創設されたことに伴い平成19年1月11日民商第31号商事課長通知による取扱いの適用はなし〈平成28年9月1日民商第132号商事課長通知第1の5の(3))。
租税特別措置法の一部改正(延長)
【概要】
1、租税特別措置法第84条の2の3
相続に係る所有権の移転登記に対する登録免許税の免税措置
適用対象となる登記の範囲に、表題部所有者の相続人が受ける土地の所有権の保存登記を加えた上、その適用期限を1年延長
(令和4年3月31日まで)
※内容については
少額(10万円以下)の土地を相続により取得した場合の登録免許税の免税措置
2、以下の租税特別措置の適用期限の2年延長
(令和5年3月31日まで)
① 土地の売買による所有権の移転登記等に対する登録免許税の税率の軽減措置
(租税特別措置法第72条関係)
② 利用権設定等促進事業により農用地等を取得した場合の所有権の移転登記に対する登録免許税の税率の軽減措置
(租税特別措置法第77条関係)
③ 信用保証協会等が受ける抵当権の設定登記等に対する登録免許税の税率の軽減措置
(租税特別措置法第78条関係)
④ 農業競争力強化支援法に規定する認定事業再編計画に~(以下省略)
(同法第80条関係)
⑤ 認定民間都市再生事業計画に基づき~(以下省略)
(同法第83条関係)
⑥ 特定目的会社が資産流動化計画に基づき~(以下省略)
(同法第83条の2の3関係)
⑦ 特定事業者等が不動産特定共同事業計画により~(以下省略)
(同法第83条の3関係)
(民法改正)相続による権利承継の対抗要件
令和2年度の司法書士試験の記述式にも出題
実務においても関わる部分は大きい
相続法の改正 2019年(令和元年)7月1日~施行
民法第899条の2(新設)
第899条の2 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
2 前項の権利が債権である場合において、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。
(事例)
特定の相続人に特定の遺産を「相続させる」趣旨の遺言により特定の土地の所有権を取得した相続人(D)は、第三者である相続人(C)の債権者に対して、登記なくして土地の所有権の取得を対抗することができない。
施行時期
2019年7月1日以後に開始した相続に関して適用
(同日前に開始した相続については改正前の取扱いとなる)
※2019年6月以前に遺言書が作成されても、2019年7月以降に相続が発生した場合については、改正899条の2が適用される
異順位の共同相続人の間で相続分の譲渡がされた後に遺産分割協議が行われた場合における所有権の移転の登記の可否について
異順位の共同相続人の間で相続分の譲渡がされた後に遺産分割協議が行われた場合における所有権の移転の登記の可否について(通知)
(平成30年3月16日付法務省民二第137号)
平成30年3月9日不登第52号(照会)
甲不動産の所有権の登記名義人Aが死亡し、その相続人B、C及びDによる遺産分割協議が未了のまま、更にDが死亡し、その相続人がE及びFであった場合において、B及びCがE及びFに対してそれぞれの相続分を譲渡した上で、EF間において遺産分割協議をし、Eが単独で甲不動産を取得することとしたとして、Eから、登記原因を証する情報(不動産登記令(平成16年政令第379号)第7条第1項第5号ロただし書、別表22の項添付情報欄)として、当該相続分の譲渡に係る相続分譲渡証明書及び当該遺産分割協議に係る遺産分割協議書を提供して、「平成何年何月何日(Aの死亡の日)D相続、平成何年何月何日(Dの死亡の日)相続」を登記原因として、甲不動産についてAからEへの所有権の移転の登記の申請があったときは、遺産の分割は相続開始の時にさかのぼってその効力を生じ(民法(明治29年法律第89号)第909条)、中間における相続が単独相続であったことになることから、他に却下事由が存在しない限り、当該申請に基づく登記をすることができると考えますが、いささか疑義がありますので照会します。
異順位の共同相続人の間で相続分の譲渡がされた後に遺産分割協議が行われた場合における所有権の移転の登記の可否について(回答)
不登第52号をもって照会のありました標記の件については、貴見のとおり取り扱われて差し支えありません。
条件
①中間相続人は1人
②相続分譲渡の譲受人は相続人以外の第三者ではないこと
③相続分譲渡の後に遺産分割協議がなされたこと
↓
異次順位の相続人間で相続分の譲渡がされた場合でも
共同相続登記がされていなければ
最終の遺産分割協議によって取得した相続人に直接相続登記が可能
〔この場合の遺産分割協議書例〕
被相続人亡Cの遺産につき、相続人F及び相続人Eは、次のとおり分割することに合意する。
1 相続人F及び相続人Eは、被相続人の相続人が自身ら2名と、下記の2名の計4名であったこと、下記の2名がそれぞれの相続分を相続人Fに譲渡したこと、
その結果、本件遺産分割の当事者が相続人F及び相続人Eの2名であることを確認する。
記
(1) 住所
氏名 G
(2) 住所
氏名 H
2 相続人Fは、次の遺産を取得する。
(以下略)